香水は、間違いなく最もパーソナルで、想像を掻き立てられるビューティーアイテムでしょう。
そして、ある特定の香りを生んだアイディアやインスピレーションの元を辿り、知ることは、時にそれを纏う人の体験ごと変えてしまうこともあります。
本日は、そんな衝撃的な体験をした香水の一つ「La Nuit(ラニュイ)」の絞首台をご紹介いたします。
画像出典:La Nuit 公式サイト
クラシック音楽を香りで表現する
「La Nuit(ラニュイ)」とは
「肌で聴く名曲」
La Nuit(ラニュイ)
La Nuit(ラニュイ)は、クラシック音楽から広がるカルチャーとスタイルを発信するニッチ香水ブランド。
画像出典:La Nuit
フランス語で「夜」を意味するLa Nuit(ラニュイ)という言葉のとおり、夜をテーマにしたクラシック楽曲が着想の源となることが多いのも特徴です。
クラシック音楽を香りで表現するという試み。La Nuit(ラニュイ)のアイディアは、どのようにして生まれたのでしょうか。
始まりは1人の、クラシックをこよなく愛する編集者
ご紹介するブランドLa Nuitの始まりは、クラシックをこよなく愛する編集者である海老原光宏(えびはら・みつひろ)氏。
その発想はクラシック音楽をライフスタイルアイテムと組み合わせることで、その素晴らしさを伝えたいという想いからでした。
クラシック音楽への愛と、編集のキャリアを掛け合わせ、
2021年の秋から本格的に音楽に着想を得た香水のプロジェクトを開始。
ラヴェル「夜のガスパール」3楽章に続き、スクリャービンの「白ミサ」「黒ミサ」「昆虫」、そして2023年10月開催のサロン・ド・パルファンにて最新のラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」をテーマにした香水を先行発表するなど、音楽と香水の邂逅を探求する旅は尽きません。
La Nuitはこちらから
・「肌で聴く名曲」をコンセプトに、クラシック音楽の素晴らしさを香りという表現で伝えている
・ラヴェル、スクリャービン、ラフマニノフなどの名曲に着想した作品を発表
La Nuitに込められた想い
La Nuitはフランス語で、夜という意味。
画像出典:La Nuit
ひとり、夜クラシック音楽の名香を楽しむ、そんな憧憬をこの名を聞くたびに覚えてしまいます。
そして形に残らないもっとも儚いもの
つまり最高にラグジュアリーで貴族趣味なもの
近世には王侯貴族、ベルエポックには高貴なサロン、クラシック音楽は時代を牽引するクラスと社会とライフスタイルと密接に関係してきました
ピアノ音楽の極致であり、ラヴェルの最高傑作「Gaspard de la Nuit(夜のガスパール)」から拝借し、 クラシックピアノ+文学、アート、ファッションetc クラシック音楽から広がるカルチャーとスタイルを発信します
ブランドを代表する香り「絞首台」
ラヴェル「夜のガスパール」
印象派を代表するフランスの作曲家、モーリス・ラヴェルをご存じでしょうか。
緻密に計算された音楽構成と、ジャズなどの音楽的要素を取り入れた曲調が多い彼の音楽を一言で表現するのは難しいですが、あえて試みるなら「狂気的で、潔癖」と表すのがふさわしいかもしれません。
彼の作品の中に、「夜のガスパール」というピアノ独奏のための組曲があります。
無名のフランス詩人ルイ・ベルトランの詩集から着想を得て作曲されたこの楽曲は、ラヴェルが幻想的で怪奇性の強い3篇を選んだというから、彼らしくて面白いですよね。
第一曲の「Ondine – オンディーヌ」は、人間の男に恋をしたオンディーヌ(水の精)をテーマにした、細かく刻む右手の連打のメロディーが優雅で幻想的な作品。
第二曲に今回の「Le GIbet – 絞首台」。
第三曲に技術的に最も弾きにくいとされる難曲、悪戯好きの妖精「Scarbo – スカルボ」と、奇抜なテーマの三曲で構成されています。
絞首台に着想した危険な美しさ。
レザーの渋さとほろ苦いウッディの競演を楽しむ香水
La Nuit 絞首台
人の肌や血、金属感、埃を彷彿とさせる、危険で美しい香り。
トップノートにレザーの渋み、ミドルにツンとした清涼感のあるエレミ。ラストに深いシダーウッドと続く、まさに渋さ、ほろ苦さとウッドの爽やかさとの競演を楽しめる香りです。
原産国:日本
参考価格:8,800円税込
※2023年10月16日時点の情報です。
香りのディレクションを手がけた和泉侃氏との対話
初めて「絞首台」に出会ったのは、半年ほど前。
音を和して生まれる音楽と、ノート(香調)を重ねて生まれる香水は似ていると感じていた頃に出会ったブランドでした。
音楽を聴いて、記憶や感情が喚び起こされる体験をしたことがある人は多いと思います。耳で聴いた記憶というのは、案外目にしているものより体に残っていたりするものだから。
香りも同様で、旅先で嗅いだ香水や、食べ物の匂いが、一つの香りを嗅いだ瞬間に蘇ってくることはよくあるのではないでしょうか。
音楽をテーマにした香水があったら。
そんな想いで探し始めた時に見つけたLa Nuit(ラニュイ)の絞首台。
タイトルに、強烈に惹かれたのを今でも鮮明に覚えています。
夜の静けさ、処刑台に吊られる死体、血の金属感、埃っぽい空気…。
厳かなエレミに、レザーの重さ、漂うえぐみ。
音楽用語で例えるならば、まさに精巧に作られた「不協和音」。
(精巧すぎて、不協和音とはもはや呼べないかもしれない。不穏な和音、といったところでしょうか)
曲を聴いて想像していた通りの香調が間違いなくそこにありました。
でも、それとは別に、肌に乗せてから香る感覚に違和感も持ちました。
それは、この香水は暖かいということ。
死の深淵を覗いたような、冷たさを表現している香水だと思っていたから、不思議でした。
絞首台のディレクションを手がけた和泉侃(いずみ・かん)氏のコメントが心に深く印象づいています。
そうして「絞首台」が生まれたのだと本当の意味で腑に落ちた時、これを纏う時の感覚は以前とは全く違うものになっていました。
最後に
最後までご覧いただきありがとうございました。
さまざまな香水ブランドが日本にも上陸し、香りを選ぶときの選択肢も昔に比べて増えたような気がします。
好きな音楽から香りを選ぶ、そして、それを紐解くときの楽しさを少しでもお伝えできればと思い、La Nuit(ラニュイ)をご紹介しました。
公式サイトでは、音楽と香りの読み物も多数掲載されていますので、
ぜひ、ご覧いただけましたら嬉しく思います。